
組織で働く
ほとんどの人が組織に所属した上で働きます。少人数の組織もあれば、大人数の組織もありますが、現代では完全に一人で働くことは稀です。それでは、組織の中で、多くの人と一緒に働く時に、心の健康を崩さないためにはどうしたら良いのでしょうか? また、どのようにモチベーションを保ったら良いのでしょう? どんなメンタリティで働 けば良いのか話します。
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組織で働くなら、組織とはどういうものか知っておく方がストレスなく働けます。
組織には重要な三つの要素があります。これは海外から来た考えなので、翻訳により表記は異なりますが、①共通目的、②貢献意欲、③コミュニケーションが組織の三要素です。③コミュニケーションは情報共有とも訳されますが、単におしゃべりするという意味でなく、仕事に必要な知識や情報を皆で共有するという意味です。よく、仕事では報告・連絡・相談(ほうれんそう)が大事と教わりますが、これが組織のコミュニケーションです。
組織の三要素は良いスポーツチームを想像すると、分かりやすいです。野球でもサッカーでも、良いチームでは、①チームの勝利という皆に共通する目的があります。また、②チームの勝利のために、一人一人が(選手も監督もコーチも含め)チームに貢献しようと思っています。そして、試合前に勝つための作戦を立て、③作戦を全員が共有します。一人だけ作戦を知らなかった、というようでは、良いチームとは言えません。そうならないように、試合前のミーティングで情報共有するはずです。
組織で働く時も、スポーツチームと同じように組織の三要素が大事です。なぜなら、企業の業績は、組織の三要素に左右されるからです。組織で働く上で、この原則を知らないと、嫌な思いをすることになります。なぜ貢献を求められるのか、なぜコミュニケーションを強いられるのか、納得できずに強制されるのはストレスでしょう。逆に、組織の三要素と知った上で働けば、納得感があるためストレスが減ります。
自分のストレスを減らすためにも、ぜひ、組織の三要素を覚えて下さい。
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組織の三要素にもある通り、組織で働く上では、組織への貢献を求められます。これはそういうものと割り切った方が気持ちが楽になります。
基本的に、働くということは、世のため人のために活動して報酬を得ることです。自分のために働いても、報酬は得られません。つまり、他人に貢献することが、そもそもの働く意味です。
しかし、無理に働き続けると、疲労が溜まり、精神的にも肉体的にもボロボロになってしまいます。そんな働き方は長続きしませんし、精神疾患にも生活習慣病にもなりやすくなり、不健康です。つまり、過剰な自己犠牲はダメということです。
無理なく働き続けられるペースで、世のため人のために働けば良いのです。
企業経営でも持続可能性を求められますが、これは労働者も同じことです。人は何十年も働きます。働き続けるには、身体と心の健康を保てるペースで働くことが必要不可欠です。長く働くためにペース配分を整え、過剰な自己犠牲を控えましょう。無理なく、組織に貢献することが大事です。
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組織で働く時は、グループ・シンクに注意が必要です。
意見が言いやすい組織や考え方が人それぞれ違う組織では、組織の中から多くの意見が出ます。そうすると、それぞれの意見を比較して良い点と悪い点を探すことができますし、多角的に検証することができます。この方が、良いアイデアに結びつきやすく、大きな間違いに気づきやすくなる等の効果が期待できます。
例えば、学者など考えることが武器となる仕事では、組織内での自由闊達な議論が基本です。
一方で、同調圧力が強かったり、皆の考え方が同じだったりで、一つの意見に皆がすぐに賛成してしまう組織だと、意見同士を比較検討することができず、多角的に考えることもできません。むしろ、皆が賛成したから大丈夫だと錯覚してしまい、本当に正しいのか考えることを怠るようになります。このように、多くの人の意見が簡単に一致してしまい、集団で考えることを放棄してしまう現象をグループ・シンクと呼びます。グループ・シンクは集団浅慮または集団思考と訳されます。
言いたいことが言えない組織や、皆の意見が同一の組織では、グループ・シンクに陥り、組織全体としての判断力が下がるのです。
グループ・シンクは仲の良し悪しとは別です。皆が仲良しの組織でも、皆の意見がすぐに一つになるとグループ・シンクに陥ってしまいます。グループ・シンクを避けるには、違う意見、多様な意見、反対意見の存在が重要です。
あなたのいる組織では、言いたいことを言っても大丈夫でしょうか? 反対意見を言ったら、雰囲気が悪くなったりしませんか? 和を乱さないように皆が黙認していないでしょうか?
反対意見を言っても大丈夫と思えることを、心理的安全性と呼びます。心理的安全性のある組織とは、仲の良い雰囲気という意味ではなく、言いたいことが言える組織ということです。このような組織の方が、業績が伸びやすいと言われています。
言いたいことを言えた方が、ストレスもたまりません。従業員は辛い時に辛いとSOSを出しやすくなります。ストレスをためず、業績を伸ばすために、心理的安全性のある、言いたいことを言える組織を目指してみて下さい。
グループ・シンクについてYouTubeで詳細に解説された動画がありますので、リンクを貼ります。
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人間関係でストレスを溜めないためには、他人の考えが自分の思い通りにならないと割り切ることが大切です。
例えば、あなたが「しっかり話せば分かってくれる」と考えて他人に熱心に話したのに、相手があなたの考えを理解してくれない時、あなたはきっと落ち込むでしょう。「なぜ分かってくれないんだ」と怒りがわくかもしれません。しかし、この状況を公平に考えれば、あなたも相手の考えを理解できていませんので、お互い様です。
あなた自身も、他人から考え方を変えるように強制されると苦痛を感じるはずです。それは他人も同じです。
人の考えを尊重するということは、お互いに自分とは違う考えであることを尊重するということです。お互いに理解し合えなくても良いという関係を作れば、お互いにストレスはたまりません。
同じように、他人に期待し過ぎないことも大事です。人は無意識に他者に役割を期待します。例えば、「親ならもっとこうすべきだ」とか「上司なら部下に寄り添うべきだ」などです。自分が相手にどのような役割を期待しているのか、自分自身に問いかけてみて下さい。その上で、自分は相手に期待し過ぎではないかと考え直してみて下さい。
他人は自分の思い通りにならない。お互い理解し合えなくても良い。そのように割り切ると、人間関係のストレスが減ります。
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職場には様々なハラスメントが存在します。ハラスメントとは、いじめや嫌がらせのことです。相手が嫌だと思えばハラスメントというのが一般的な使い方ですが、法令違反になるハラスメントとは別に定義があります。簡単に言えば、社会通念から逸脱しているとか、職業倫理を超えている場合に問題となります。
ハラスメントには、種類ごとに名前がつけられておりますが、全てをまとめてモラル・ハラスメントと呼びます。モラル=倫理・道徳ですから、倫理・道徳に反したいじめや嫌がらせが、モラル・ハラスメントです。具体的には以下のようなものがあります。
パワー・ハラスメント(パワハラ):上司などの立場や権力(パワー)を利用したハラスメントです。パワー・ハラスメントに対する法整備は最近進みました。法的には、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものがパワー・ハラスメントと定義されています。上司は部下を管理・指導する責任を負いますので、指導を放棄することはできません。ただし、一線を超えるとパワー・ハラスメントとなりますので、気を付けなければなりません。パワー・ハラスメントの具体的な事例を厚労省のホームページを見て確認して下さい。
セクシャル・ハラスメント(セクハラ):性的な嫌がらせのことです。男性から女性に対するものだけでなく、女性から男性に対するものも該当します。また、性犯罪に近いものだけでなく、セクシャルマイノリティに対する差別的発言などもセクシャル・ハラスメントに含まれます。
マタニティ・ハラスメント(マタハラ):妊娠・出産・育児休業などを背景に受ける嫌がらせや不利益をマタニティ・ハラスメントと呼びます。
カスタマー・ハラスメント(カタハラ):職場の上司や同僚からのハラスメントだけでなく、顧客からのハラスメントをカスタマー・ハラスメントと呼びます。悪質なクレームなどで従業員が心の健康を崩す事例が相次いでおり、行政も啓発活動を行っています。
上記の他にも、労働者としての正当な権利を害するものは、何らかのハラスメントですし、法律に抵触する場合もあります。
現実的には、ハラスメントを完全に防ぐことは極めて難しいです。しかし、それでも企業は何らかの予防策を講じる法的義務があります。各企業には、ハラスメントの相談窓口が設けられています。
詳しくは厚生労働省の運営するサイト「あかるい職場応援団」でご確認ください。
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ハラスメントは法に触れる程度までのものが問題なのは明らかですが、法に触れない程度であれば良いというわけでもありません。ハラスメントの程度を判断するうえでは、2つの軸があると思います。
一つは、法律上の判断軸ですが、経営上の判断軸です。ハラスメントの多い職場では、離職者が増えます。離職者が増えれば、採用コストが増えてしまいます。また、新入職者に教える立場の人員まで考えると、離職者数よりも多くの入職者が必要になり、人件費が増えます。つまり、ハラスメントとは人材管理上のコストを大きく引き上げる要因となるわけです。当然、増えたコストが利益を圧迫しますから、経営上はマイナスです。
また、組織全体のモチベーションを下げる可能性もあります。たとえば、上司側は部下にやる気を出してほしいと思って叱ったと認識していても、叱られた部下は理不尽に怒鳴られたと認識するなど、認識の違いが出ることがあります。こうなると、部下のモチベーションは下がり、仕事のパフォーマンスも下がるでしょう。離職する可能性も高まります。
しかし、業務上必要な命令は、行わなければなりません。したがって、職場で注意する際は、業務上必要であることを再考し、必要な範囲で注意するよう心掛ける必要があります。パワハラの定義でも、業務上必要かつ相当な範囲を超えた場合に違法とみなされるので、業務上必要な範囲における注意は違法となりません。
ハラスメントを考える上では、違法か合法だけでなく、会社の利益、組織全体の波及についても考えると良いと思います。